夜中の誘惑

ふと小学生の頃を思い出すと、あのことは夜更かしなどもってのほか、21時以降のドラマも見させてもらえずに、なかなか悶々とした記憶がある。21時には寝なさいと親にしつけられたためである。
中学生になるまではそんな感じ、中学生になって、21時以降のドラマも見れるようになったが、せいぜい23時には寝ていた。
その当時と言えばゲームハードではスーパーファミコンの時代だったが、我が家にSFCなんてものは無く、友人達がドラクエの話などをするのがうらやましくて仕方がなかった。その後なぜかゲームギアがやってき、その後はゲームボーイ、中学生以降でプレイステーションだっただろうか。どれもずいぶん遅くやってきた記憶がある。


私は回転寿司屋でバイトをしているが、もうかれこれ8年ほどになる。8年もやってると変わること、変わらないこといろいろ出てくる。その中でも特に変わった、と感じることがある。それは「客層」である。
単に「客層」と言うと、子供から大人まで幅広く来店しているが、そういう話ではない。時間帯別による客層の話である。
うちの店は22時30分入店ストップの23時閉店である。特に変わったところのない、普通の営業時間である。
最近では、24時間営業の店も増えて来ており、労働時間も様々だろう。そのせいもあってか、ここ数年、閉店間際に来店されるお客さんも少なくない。それはある意味で売り上げは上がるし喜ばしい限りではある。
しかしながら、その客層を見ていると時々首をかしげたくなることがある。


それは、閉店間際に来る子供づれの家族、である。


一見するとほほえましい光景に見えなくもない。事実、ほほえましい家族も多くいるが、すべてがそうではない。
親だけが食事をし、子供は何も食べずに暇そうにして、あげく寝てしまうところ。それがめずらしい、とか言う数ではない程度に来るのである。小学生、中学生くらいまでならまぁまぁ普通か、とも思えるのだが、幼稚園、保育所くらいの年齢の子供までいたりする。そういう子供は大体暇そうにしてそこらじゅう走り回りはしゃぐか、ぐったりしているかのどちらかであることが多い。
ふと思い出せば、冒頭のような生活を送っていたせいか、どうも違和感を感じざるを得ない。私の中での幼少期の夜更かしと言えば、ベッドの中でこっそりと聞く深夜ラジオが限界であった。それは今では、普通に起きてテレビを見たりゲームをしたり、外食に行く、と言うことが普通なんだろうか。


私は幼少期我慢した(と思っている)おかげで、今夜更かしすることが贅沢で仕方がない、とまで思ってしまう。押さえつけられていたモノが解放されるときに快感は、まず押さえつけられないと味わえないモノである。
しかし、今、何の不自由もなく、ほしいものが手に入り、やりたいことができる環境で育つ子供が、将来大人になって、不自由な思いをしたとき、それを乗り越えたときに得られる快感に気づくだろうか。
私の考え方が古すぎるのかもしれない。豊かな世の中になったと言われる現代、私もその渦中の人間だろう。それより昔の辛かった時代を生き抜いてきた方々と比べるとおこがましいくらいである。


もし、自分に子供ができたなら、こう育てたい、と言う漠然とした思いはある。それらの多くは自分の親にされたしつけから来るモノがほとんどである。当時はそんな夜更かしもできない家が嫌で仕方がなかったのに、不思議な話である。それは、今の歳になって、あぁ、あのときああいう風に育ててくれてよかった、と思えるようになってきたからなのだろう。


今、小さな子供を持つ親はどう思うのだろう。正直今年の誕生日を迎えると四捨五入で30になる私だが、同級生や友人知人には子供のいる人も少なくない。いわば、小さな子供を持つ親と同年代、と言うことになる。
私の考え方が正しい、とはいえ無いと思う。考え方はいろいろだ。しかし、どこか釈然としない。本当にいいのだろうか。


バイトをしていると、昼間来る、常連のお客様に小さい子供をよく連れてくる方が2組いる。2組とも子供が食事をしている間、隣のスーパーで買い物をしているようである。かたや、食事が終わると椅子で暇そうに遊んだり、店内を走り回ったりする。かたや、食事が終わると握りしめた500円玉でお会計まで済ませ、母親が帰ってくるまで椅子に座って待っている。
500円を握りしめた彼は、一体何時に寝ているのだろうか・・・。